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活動報告

■コンサート:若々しい情熱家

(1980年6月29日 ニューヨーク・タイムズ)
---- ジョセフ・ホロヴィッツ ----

 プログラムだけを見れば、6月7日のアリスタリーホールでのコンサートはニューヨークのマンハッタンでは、ありきたりのコンサートの一つに過ぎないものだった。オーケストラはニューヨークフィルとメトロポリタンオペラのメンバーで結成されたメトロポリタン・アンサンブル・オブ・ニューヨークと呼ばれ指揮者はこれまで特に取り立てて評価されたことのない若い日本人、高原守であった。プログラムはモーツァルトの“小さな”ト短調交響曲25番、K183、エルガーの弦楽器の為のセレナーデ、ハイドンのピアノコンチェルトニ短調、そしてレオナード・レオのチェロコンチェルトニ短調であった。
 蓋を開けてみると、コンサートは見事なまでに充実した音楽の午後となった。高原の指揮は強い個性は欠けるきらいはあったがコンサートを通して彼の素直な指揮によりクリーンで生き生きと張りがあり、洗練された演奏を引き出すことで明確な印象を残した。ところどころもう少し手が行き届けば良かったとか、あるいはもう少しダイナミックさがあれば良かった個所があったがそれを十分補うまでに彼は終始リラックスして音楽そのものの素朴な美を味わわせてくれた。このことは才能ある若い音楽家だからと言って誰もが持っている特質ではない。
 モーツアルトの交響曲25番これは15年後に書かれたト短調のマスターピースである40番、K550を予言するものだが、特に素晴らしい出来映えだった。演奏は曲を形作っている品位を壊すことなく曲の持つ溢れんばかりの激情をよく伝えていた。たった16人の弦に支えられて管楽器の全体にメリハリを与えて駆り立てられたのだった。
 レオのコンチェルトのチェロソリストはネイザン・スタッチで彼の演奏は時々危なっかしい個所があったが、力強く説得力のあるものだった。
 ハイドンのピアノコンチェルトのソリストは今年わずか12歳のジーン・タングだった彼女の澄み切った音色は十分な重さに欠けていて叙情的なパッセージで各部の細部が心で理解されているというより頭で理解されているのかの様にぎこちなく弾かれてしまった個所があった。しかしタングの演奏は正確であるばかりでなく流れる如く淀みの無いものであった。また演奏が自然な為に、円熟した音楽家が(どんなに天分のある者であっても)見失いやすい魅惑的な健やかさを見せたのであった。